空間集積検出手法の開発

空間的に広がる経済活動の背後に潜むメカニズムを明らかにすることは,経済地理学や空間経済学における重要な研究課題となってます.複雑なメカニズムを解明するには,最初に,空間データを用いて経済・社会活動の特性を明らかにする必要があります.本研究では,空間的な経済・社会活動の特性の一つである空間集積に着目し,経済・社会活動の集積領域の検出手法の開発に取り組んでいます.これまで開発してきた手法は,1) 経済活動(e.g. 企業立地,商業立地)が集積する領域の検出手法と,2) 地域間のフロー(e.g.  通勤者,人口移動,情報通信)が集積する領域の検出手法,の2つです.

第一の手法では,既存の空間集積の検出手法で仮定されてきた「集積領域が円形や楕円形であるといった形状制約」や「集積領域が連結した地理的単位の集合によって構成されるという仮定」を緩和し,厳格な形状制約や連結性を仮定しない集積領域検出法を提案し,同手法を実装するためのアルゴリズムを開発しました.提案手法は情報科学分野で発展した確率的情報処理の技法に基づいているため,大規模な空間データへの適用可能性が大きいという特徴を持ちます.提案手法を首都圏の事業所企業統計データに適用し,産業別に集積領域を検出して,都市内の産業集積の特性の把握も行ないました.

第二の手法は,地域区分手法と呼ばれるもので,1960年代から地理学者らによって連綿と開発されてきました.これまで多様な手法が提案されてきましたが,機能地域区分問題に正解がないこともあり,標準的な区分手法の確立には至っていません.本研究では,ネットワーク科学で2000年代半ばより急速に発展してきたコミュニティ抽出問題(ネットワークの中からリンクで密に結ばれたノードの集合を抽出する問題)と機能地域問題が数学的に類似した問題である点に着目し,コミュニティ抽出法に基づく機能地域区分手法を提案しました.コミュニティ抽出問題が対象とするネットワークでは距離の影響が重要でないのに対し,機能地域区分問題が対象とする空間ネットワークでは距離の影響が卓越しているという違いがあります.そこで,地域科学分野で開発されてきた空間相互作用モデルとコミュニティ抽出法を組み合わせた機能地域区分手法を新たに提案し,ケーススタディを通して提案手法の有効性を明らかにしました.

関連論文

  • 氏家晃仁,福本潤也:厳格な形状制約や連結性を仮定しない集積領域検出手法の開発,土木学会論文集D3, Vol.71, 2015.
  • 氏家晃仁,福本潤也:Functional Region設定結果の妥当性判定手法の提案,土木学会論文集D3, Vol.70, 2014.
  • 福本潤也,岡本佳洋:コミュニティ抽出法と空間相互作用モデルを組み合わせた機能地域区分手法の提案,土木学会論文集D3, Vol.67, 2012.