予測市場に基づくガバナンス

予測市場(Prediction Market)とは,将来の不確実な事象を正確に予測することを目的として設けられる市場です.予測市場では,将来の不確実な事象に関連した金融商品が取引されます.例えば,代表的な予測市場の一つであるIowa Electronic Markets(IEM)では,大統領選挙の選挙結果に連動した金融商品として,1) ある候補者が勝利した場合に1ドルのペイオフを得られるArrow – Debreu証券や,2) ある候補者が獲得した得票率に比例してペイオフが確定する証券が取引されたりします.予測市場の市場参加者は,不確実な事象についての主観的な信念(予測)と,事象に対応する金融商品の価格を比較した上で,市場で金融商品を購入したり売却したりします.この時,市場参加者の行動の結果として定まる金融商品の均衡価格は,取引に参加した全ての主体の主観的な信念を反映して決まります.金融商品の均衡価格を将来の不確実な事象の生起確率や期待値とみなしてしまおうというのが予測市場の基本的発想であります.

予測市場の最大の意義は,市場メカニズムを通じて,多様な人々の主観的な信念を均衡価格に集約する点にあります.個々の参加者が将来の不確実な事象について断片的な知識しか持っていない場合でも,予測市場に基づく予測では,それらを結合した『集合知としての予測』を行うことができます.また,時々刻々と変化する金融商品の価格が全ての主体に観察可能であるため,予測対象となっている事象についての新たな情報が短期間のうちに市場価格に組み込まれ,市場を観察する全ての主体へと拡散していくというメリットもあります.さらに,個々の市場参加者は,自らの予測が正確であれば市場取引を通じて大きな利益を得られる可能性があります.そのため,予測精度を高める努力をするインセンティブが働きます.さらに,予測市場に基づく予測は,予測結果の恣意的操作に対して頑健であるというメリットもあります(一部の参加者が市場価格の恣意的操作を試みたとすると,他の参加者に価格の恣意的操作の影響を相殺する取引を行うインセンティブが生じるため,恣意的操作の試みは失敗しやすくなります).

予測市場は,将来の不確実な事象を正確に予測するために設けられる市場であります.しかし,最近では,予測市場の仕組みを将来予測にとどまらず,公共政策の意思決定に活用することを模索する研究も進展しています.それらの研究は,将来予測や社会的意思決定に関する様々な課題を抱える土木計画学にとっても,参考となる考え方を含んでいます.本研究では,予測市場に基づいて土木計画学分野におけるガバナンス問題を解決するための方策について研究しています.

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